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6月9日 グレゴリオ聖歌入門 (東京)
配布資料: p15 <ネウマの分離>

[本日の講義]
◇基本の復習
◇ネウマの分離
◇グレゴリオ聖歌練習(昇天のミサ:入祭唱(Viri Galilaei), Kyrie, Gloria)


* この講座では「グレゴリオ聖歌セミオロジー」カルディーヌ著(音楽之友社)
 に沿って進めています。まだ持っていない人は是非購入しましょう。
 絶版なので古本屋サイトで⇒http://www.kosho.or.jp/top.do

* 前年度に履修した基本は適宜復習しながら進めますが、今年度から参加の方は
「まだそれ習ってない?!」というものがそのまま通り過ぎそうでしたら、
遠慮なく質問してください。前年度からの人も復習になって大変助かりますので。

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◇ 基本の復習
*旋法:大きく分けると8つ。資料p1を参照。
   1、3、5、7、旋法のFinalis(終音)とDominant(曲を支配する音) の関係は5度
   2、4、6、8、旋法のFinalisとDominantの関係は3度、4度、3度、4度
☆覚えましょう⇒「2, 4, 6, 8 は、3, 4, 3, 4」

*ミサの固有唱と通常唱の違い:
   固有唱―祝日毎に固有に歌われる
   通常唱―いつも同じ(5つ:Kyrie, Gloria, Credo, Sanctus, Agnus Dei)

*昨年度履修の基本的ネウマ(12個) 資料p3を参照。
<1音>
1. virga (ヴィルガ) : 高い
2. punctum (プンクトゥム):低く短い
Tractulus (トラクルス) : 低い
<2音>
3. clivis (クリヴィス): 高→低
4. pes(ペス) : 低→高
<3音>
5. porrectus(ポレクトゥス): 高→低→高
6. torculus(トルクルス) : 低→高→低
<3音以上>
7. climacus(クリマクス) : 上から下向きに下がる
8. scandicus(スカンディクス): 下から上向きに上がる
<4音以上>
9. porrectus flexus(ポレクトゥス・フレクスス): 高→低→高→低
10. pes subbipunctus(ペス・スプビプンクティス):下から上に上がって2音下りてくる
11. scandicus flexus(スキャンディクス・フレクスス):下から上に3つ上がり4つ目の音が下がる
12. torculus resupinus(トルクルス・レスピヌス):低→高→低→高

13以降は次回より学びます。

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◇ネウマの分離 (資料p15 / Cardine「グレゴリオ聖歌 セミオロジー」p80~)

ネウマ(10世紀に作られた欧州最古の記譜法)の典型的な特徴として
ネウマの分離』という現象がある。

繋がっていないネウマとネウマの間の『すき間』
すなわち『アーティキュレーション』を
Cardine(セミオロジーの本)は『分離』と言い表している。

それぞれのネウマの最後の音を長くする。
つまり、最後の音をしっかり歌ってから次の音へ行く。
(そのすき間で音を切ったり息継ぎをしたりする、という意味ではない)

<例>

[1] GT 351.5 (Graduale Triplex, p351, 5段目)

GR. I  ⇒ Graduale、第1旋法 (五線の一番上左端にC (ハ音記号)=この音が『ド』)
最初の「Ec-ce」という1つの単語に、
ザンクトガレンのネウマ(赤字)が ”5つ” 付けられている。

1.pes (ペス) = 2音目が高い
2. climacus (クリマクス) = 2音目が点(・)の場合は最初の音も短くなる
           更にc(チェレリテル=速い)を付けて強調している
          3音目がトラクトゥルス(長い)、更にエピゼマ(長くしっかり)が付いている
3.torculus (トルクルス・レスピヌス) = 4音つながっている
4.virga (ヴィルガ) = 高い
5.virga (ヴィルガ) = 高い

この5つのネウマの間に『アーティキュレーション』がある。

「旋法」と組み合わせて考えると、第1旋法(finalis:レ、dominant:ラ)なので
レとラを強調するような指示となっていることが分る。

設問:この箇所がすべて軽い音だったらどういう書き方になるか? 
   (この5つのネウマの部分の分離がなく繋がっていたらどのようなネウマとなるか)

答え:scandicus(スカンディクス)+climacus(クリマクス)+punctum(プンクトゥム)
+clivis(クリヴィス)+pes(ペス)+tractulus(トラクトゥルス)

<分離をepizema (エピゼマ=長くしっかり)で強調している例>
 
[2] GT 316.3 (p316の3段目、小区分線の後から4段目の中区分線までのネウマ)

GR. VII ⇒ Graduale、第7旋法(finalis:ソ、 dominant:レ)

ラ(tractulus)、シラミ( porrectus+episema)、レミレミド(porrectus flexus)、ドレド(torculus+episema)、レ(virga)、ドドシ(pressus)

これら6つのネウマの間にアーティキュレーションがある。

[3] GT 70.3 (p70の3段目、複縦線の後のQuo-ni-am nonのnonに付けられたネウマ)

其々のネウマ全てにepisemaエピゼマが付けられ、分離を強調している。

資料p15中央の表は、
これらのネウマの分離が、1地域の記譜家達だけで決めていたのではなく、
地域や教会が違っても、同じようにほぼ一致した歌い方をしていたことを示している。
其々の地域でネウマの形が多少違っているが、同じ内容の指示が書かれている。

<分離の例外>

「低部分離」: 一番低い音のところでネウマが切れている場合は分離しない。
       (アーティキュレーションは起こらない)

*一番低いところで切りたい場合は、ネウマで切るように指示されている。

[GT 197,8-198,1] ⇒ (immo-la---tusのlaで伸ばす部分)
p198、1段め中央の「ドドラ」に付けられたネウマtrigon(トリゴン)の
3つ目の音がtractulus(トラクトゥルス:長い)になっている。
ここで分離する、という指示。

[GT 146,9 (p146) ⇒ (一番下の段、同じ音形が続くところ)
ここでは低い部分で分離が起こらないように、
trigon(トリゴン)とclimacus(クリマクス)の上に
横長のc (celeriterチェレリテル=軽やかに)が付けられている。
(横に伸びてcには見えないが、鰻が横に寝ているような記号)

<ネウマの分離のまとめ>

* ネウマが途切れていたら、アーティキュレーションがある。
* 一番低いところで切れていたら、アーティキュレーションはない。
* アーティキュレーションをはっきりさせる為に、
 episema(エピゼマ) が付けられていることがよくある。

* 旋律をグループとしてみるように。
 グレゴリオ聖歌は、一定のフレーズの定型パターンを繋ぎ合わせてある。
 言葉にアーティキュレーションがあるように、旋律にもフレーズを付ける。

* アーティキュレーションを見ると、旋法上大切な部分でもあることが分る。

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◇ グレゴリオ聖歌練習 (昇天のミサ:入祭唱(Viri Galilaei), Kyrie, Gloria)

本年度は「昇天のミサ」を練習する。
資料p10「昇天のミサの固有唱 In ascensione Domini」を参照のこと。

復活節 (復活祭から50日間)
復活祭:春分の日以降の満月の次の日曜日
昇天祭:復活祭から40日目の木曜日(現代では次の日曜日に祝うことが多い)
聖霊降臨祭:復活祭から50日目の日曜日(昇天祭から2つ目の日曜日)

( 前回5月19日の講義レポートもご参照下さい。)

1. GT p235~ Antiphona ad introitum VII
(入祭唱のアンティフォナ(交唱)、第7旋法)

<入祭唱の歌い方>
Antiphona→ Ps.(Psalm=詩篇)→ Gloria patri→ Antiphonaに戻る

詩篇は昔はおそらく全文唱えていたが、現在は1節のみに省略されている。
詩篇は旧約聖書(ユダヤ教の聖典でもある)なので、キリスト教ではその後に
キリスト教の教義である三位一体を讃える栄唱(Gloria patri)を必ず付け加えて歌う。
この栄唱は、旋法によって曲が決まっており、
ここでは第7旋法なので、第7旋法用の栄唱を歌う。(GT p824)

Viri Gailaei (主の昇天 入祭唱)

Viri Galilaei, quid admiramini aspicientes in caelum? Alleluia :
ガリラヤの人たちよ、 何を不思議がって天を見上げて立っているのか。アレルヤ。
quemadmodum vidistis eum ascendentem in caelum,
あなたたちが、彼(イエス)が 天に昇っていかれるのを見たときと同じ姿で、
ita, veniet, alleluia, alleluia, alleluia.
彼はまた、おいでになるでしょう。アレルヤ、アレルヤ、アレルヤ。
――――――――――
Ps. Omnes gentes plaudite manibus: 
詩篇:すべての民よ、拍手で讃えよ。
jubilate Deo in voce exsultationis. 
喜びの声を上げて 神を祝いなさい。
(詩篇 第47:1)
――――――――――
Gloria Patri, et Filio, et Spiritui Sancto.
父と、子と、聖霊とに、 栄えあれ。
Sicut erat in principio, et nunc, et semper, et in saecula saeculorum. Amen.
始めにそうであったように、今も、いつも、永遠に。 アーメン。

最初の*までカントルが1人で、その後は大区分線までを区切りに、左右のグループが交互に歌う。
詩篇の前半はカントル1人で、後半は全員で歌う。
Gloria patriは最初の1節だけカントル1人で、その後は全員で歌う。
戻ってAntiphonaは(一般的に)全員で歌う。

<音符とネウマの不一致>
楽譜に書かれている『音符』(後世に整備された)と『ネウマ』の不一致が所々認められる。
どちらが正しいということはないが、この講座ではネウマ(ザンクトガレン・赤字)を重視していく。

*p235、2段目、小区分線のあと、asupi- のaとi両方の上にtractulus(トラクルス) ”-“(低い)がついている。
 音符はaがド、iがシと下がっているが、両方に修正して歌う。

*3段目、大区分線のあと、quemadmodumのqの上にequaliter(エクアリテ) ”e”(前の音と同じ)がついている。
 音符はラとなっているが、前の音と同じに修正。

*すぐ次のquemadodumのaの上にも”e”がついているので、音符はドだが
その前に前の音と同じソの音を「加える」。
↑ザンクトガレン(赤字)のネウマではpes(ペス)が二つ書いてあるので、本来音は4音あるはず。

* 3段目、vi-distisのviとdiの上にtractulus ”-“が付いているのでdiもviと同じに修正。

*4段目、中ほどcae-lumのuの上にtractulus “-“が付いているので、音符はドに上がっているが
前の音と同じシに下方修正。

*5段目、中ほど3つ目のalle-lu-iaのalle-のlの上にネウマ”P”のような文字がついているが
 これはvirga(ヴィルガ) の先を丸めたものでliquescens( リクエッシェンス)、子音を言う為の音を
付け足していることを示している。研究によると古い楽譜にはもう1つ音が下に付いているので
それに従い、ラの音の下にソの小さい音符を付け足す。

(音符の修正のしかた⇒ 決まりはないが、花井先生は、元の音符■にXを付け、
新しく□で書き足して、手書きで直したことが判るようにしていらっしゃるとのこと。)

*楽譜に書かれたより小さな音符liquescens(リクエッシェンス) は、「子音」を言う為の音符。
 よく出てくるので注意。
*Alleluiaのiは母音iではなくyという子音。小さな音符のところにyを入れる。

2. GT p710 KYRIALE [ I - TEMPORE PASCHALI]

固有唱は、基本的に1つの歌詞に1つの旋律がつけられているが
通常唱は、同じ歌詞に様々な旋律がつけられている。

p 709 からはキリエに始まるミサ通常唱がまとめて載せられている。

TEMPORE:季節
PASCHALI :パスカリ: (ヘブライ語で「過ぎ越し祭」の意) キリスト教では「復活祭」
     旧約聖書の「出エジプト記」の話をキリストの死と復活に当てはめて解釈している。

Tempore Paschaliは約して“T.P.”
GT等の中で、復活節に加えて歌われる部分に書かれている。(例:p447,7段目のAlleluiaの前)

ちなみに、p710下段の「A – PRO(~の為に) DOMINICIS(日曜日)」は、復活祭中の日曜日に歌うバージョン、
p711下段の「B – PRO FESTIS(祝日) ET(&) MEMORIIS(記念日)」は、復活節中の小さな祝日や聖人記念日に歌うバージョン。

p710のKyrie (Lux et origo):光と原点
VIII: 第8旋法

*1段目、複縦線の下に書かれている“bis”は「ここまで2回繰り返す」という意味。
 本来は3回歌われていたが、第二バチカン公会議以降2回と省略された。
 この講座では本来の3回で歌う。

*3段目、Kyrieのあとに「*」(アステリスクス)を書き加える。(ここ以降は全員で歌う。)

<Kyrieの歌い方>
最初の*まで、カントルが1人で歌う。以降は左右のグループが交互に歌う。
Kyrie eleison – 3回繰り返す
Christe eleison - 3回繰り返す
最初のKyrie eleisonに戻って2回歌い
最後、3段目のKyrieを左右どちらか担当のグループが歌い
*以降最後のeleisonを全員で歌う。

Gloria (p712, 5段目)は一度通しました。詳細は次回改めて。

(*p713,最下段のAmenの前にも「*」を書き加える。)

(M.M.)
by fonsfloris-k | 2012-06-09 13:00 | 講座レポート
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