6月15日グレゴリオ聖歌入門(東京)
6月15日 グレゴリオ聖歌入門(2013年度2回目)
(配布資料: 旧年度からの参加者に、本年度から参加者用資料のp3が配布された)   

[本日の講義]
◇ テキスト「GRADUALE TRIPLEX」について
◇ ネウマの復習-聖母お潔めの祝日のミサを練習しながら
◇ 質疑応答とお知らせ

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◇ テキスト「GRADUALE TRIPLEX」について

Graduale:狭義には「昇階唱」を意味するが、広義には『ミサ用聖歌集』を意味する。
Triplex:「3種」の楽譜が記載されている。
⇒ 四線譜だけに簡素化された楽譜「GRADUALE ROMANUM」に、ランの写本(上方に黒字で記載:Marie-Claire Billecocqによる)と、ザンクトガレンの写本(下方に赤字で記載:Rupert Fischerによる)が書き加えられたもの。第二バチカン公会議(1962~1965)で改定された新しい教会歴に従いソレム修道院(仏Solesmes)にて編纂された。

* 最古の楽譜であるネウマ譜が書かれる以前にも、グレゴリオ聖歌は長い年月を掛けて変遷を遂げてきており、その後も現在に至るまでに変遷や単純化を経てきているが、現在我々が知り得る最古の形であるネウマを研究することで、グレゴリオ聖歌のその最盛期の精神に一番近づけるのではないかと、研究が進められている。GRADUALE TRIPLEXが出版された後に、より修正が加えられた新版も出ているが、それはまだ第一巻までしか発刊されていない。

<使用されている写本とその略号> (序文のページを参照)
L (Laon239)【ラン】(北仏) 930年頃記譜された写本。
C (St. Gallen 359)【ザンクト・ガレン修道院】(スイス) 10世紀初頭の写本。[Cantatorium] 独唱者カントールが歌う曲だけが集められている。グレゴリオ聖歌の記譜としては最古だが最も詳細。
E (Einsiedeln 121) アインズィーデルン修道院(スイス)で書かれたザンクトガレン系、11世紀の写本。独唱者の為の曲だけでなく入祭唱・奉納唱・拝領唱・交唱も納められ、指示文字も豊富。
以下G、SG、H もザンクトガレン修道院所蔵の写本。B(Bamberg修道院所蔵) もザンクトガレン系の写本。 他。
 ⇒ どの写本が使われているかは、各曲冒頭の欄外に四角で囲って書かれている。
例: 楽譜最初のページ、1行目の欄外の四角内、 上「L7」…ランのp7、
下「SG376 p83」…ザンクトガレン写本376の83ページ

<主な項目> (資料p5を参照)

・PROPRIUM DE TEMPORE‐聖節の部 (proprium=固有 tempore=季節) p13~
  教会歴での季節(聖節)に固有の曲が収められている。
p15~ TEMPUS ADVENTUS - 待降節 (教会歴の1年は待降節より始まる)
 HEBDOMADA(週) PRIMA(第1) ADVENTUS(待降節) - 待降節第1週の固有唱
以下、p38~ TEMPUS NATIVITATIS – 降誕節、p185~ TEMPUS PASCHALE – 復活節、等。
聖節は復活祭を基準に決まるが復活祭はその年によって変わるので、その年によって祝日は変わる。
聖人の祝日は日にちが固定されているが、キリストの祝日は、クリスマス(12月25日)と主の公現日(1月6日)以外は日にちが固定されていない。

* p257~ TEMPUS PER ANNUM - 年間の(特定の祝日ではない)日曜日の曲を集めた部
 古くは、三位一体の主日(日曜日)以降の日曜日を第1、第2、と数えていたが、第二バチカン公会議以降は、主の公現日(1月6日)以降、年間の特定の祝日ではない日曜日を第1、第2、と(年間第34週日曜まで)振り分けるようになった。
P388~Dominica ultima per annum(年間最後の日曜日-第34週)
 D.N. IESU CHRISTI UNIVERSORUM REGIS(全宇宙の王なる我らが主イエスキリストの日)

・ COMMUNIA - 共通の聖人の記念 p393~
  教会献堂式、聖母マリア、複数の聖人を同時に祝する為の曲。12使徒、殉教者(使徒、教皇、司教、司祭)、その他博士、聖女、等一般聖人で、同じカテゴリーに属する複数の聖人達は同時に祝することができる。(p395 Communiaの目次を参照。)

・ PROPRIUM DE SANCTIS - 聖人の部 p533~ 
  1月より12月までの、それぞれの聖人の祝日の為のミサ。 どの曲(固有唱)を歌うかが記されている。略字[ IN(入祭唱)、GR(昇階唱)、AL(アレルヤ唱)、OF(奉納唱)、CO(拝領唱)]については資料のプリントを参照のこと。

・MISSAE RITUALES AD DIVERSA ET VOTIVAE - 諸儀礼のミサ p641~
・LITURGIA DEFUNCTORUM - 死者の為のミサ p667~
  いわゆるRequiem (Requiemで始まる)

・CANTUS IN ORDINE MISSAE OCCURRENTES – ミサ式文中の諸歌 p705~
  KYRIALE p709~
Kyrieから始まるミサ通常唱(Kyrie, Gloria, Credo, Sanctus, Agnus Dei)
新年度からの人は資料p1、旧年度からの人は資料p2の表を参照。
Credoは別にまとめてある。 P769~

・APENDIX – 付録 p829~ 
  LITANIAE 連梼、Te Deum 感謝、主の奉献(2月2日)、等
・INDEX – 索引 p191~


◇ ネウマの復習-聖母お潔めの祝日のミサを練習しながら

* 資料のプリント「ザンクトガレン系ネウマ記号一覧表」を参照。
(基本ネウマのごく簡単な説明は、前年度のレポート、2012年6月9日の前半部分 「◇基本の復習」もご参照下さい。(私がレポート担当した回です)⇒http://kogakuin.exblog.jp/17780950/ )

  前回に続いて、p539~の2月2日、聖母マリアのお潔めの祝日(新しい典礼の言い方では「主の奉献」(IN PRAESENTATIONE DOMINI)と言う)の復習から。

Ecce Dominus‐まず初めにろうそくの祝福があり、ろうそくの行列が歩き始める時に歌われる歌。
* 第三旋法。 finalis(終音)はミ。dominant(曲を支配する音)はシ。
(第三旋法のドミナントはシとドがあるが、時代により変ってきた。古いものはシ、新しいものはド。(同じ曲でもシをドに換えて伝わっているものもある。)

* 楽譜2段目に小区分線があるが、ネウマに従えば、これは本来要らないもの。
(区分線(小・中・大・復縦線)は、ソレム修道院にて区切り方の1つのアドバイスとして四線譜に書き加えられたものである)
この場所の下に記されたネウマの指示文字「st(statim)」は『切らないで次の言葉に続ける』の意味。
⇒区分線を無効にするために、その上に͡を付けておく。

* 1段目最後の中区分線は正しい。
前のetに指示文字「χ」(expectare:待つ)が付けられているので、少し間をあけて次へ進む。

* 1段目 Domi-musのDoに付けられたネウマは「ペス(pes)」『下から上へ、2つの音を流れるように』
* 同じペスだが、2段目servo-rumのvoと、al-le-lu-iaのalに付けられた角ばったペスは、「ペス・クワドラートス(pes quadratus)」『2つの音を流れず一つづつゆっくり歌う』

* 1段目最後のve-ni-etのniに付けられたネウマ「∩」(クリヴィスcrivis)は『上から下へ』
* そのクリヴィスの上に付けられた指示文字「c」(チェレリテルceleriter)は『早い・軽い・軽やかに』
(* cの逆は「t」(テネーテtenete)『ゆっくり』)

* 2段目最後のalleluiaの-lu-の上に、同音の音符が2個ついているが、1つを取り1個とする。
下のネウマでは音は1つ。/(virga)の先端に゚(liquescent:そこで次の子音を言う為の記号) がついたもの。
Liquescent(融化)については、本日配布された資料プリントp3を参照のこと。
融化とは、間に入っている子音を滑らかにして音節を続ける為に、どこに子音を付けるかを指示する記号。


P543 入祭唱 (ここからがミサ)
* 第一旋法。 finalis(終音)はレ。dominant(曲を支配する音)はラ。

* SUCEPIMUSのあとの「*」は、そこまで先唱者が歌う、という印。

* De-usのネウマは、ランとザンクトガレンとでは違う指示。両方を確認すると、片方だけでは分らない事を補い合っている場合がある。どちらか分らない場合は古楽院ではザンクトガレンの方を基本としている。

* 1段目、cor-di-amのcorに付けられた2つ目のネウマは、/(virga)の先端に゚ (liquescentが付けられたもの。ここでは、「co(ドの音)」の高さで続く子音「r」を付けるという意。

* cor-di-amのdiに付けられたネウマ、クリヴィスの上に「-」(エピゼマepisema)が付けられている。エピゼマは『2つの音を流れず両方しっかり歌う』の意。

* 2段目、me-di-oのmeに付けられている4音のネウマは「トルクルス レスピヌス(torculus resupinus)」 トルクルス(∽)+1音、の形。最初の3音を滑らかに歌い、最後の1音をしっかり歌う。

* 2段目、templiのliに付けられたネウマ、Mのような形は「ポレクトゥス フレクスス (porectus flexus)」クリヴィスを2つつなげたもの。

* 2段目tu-iのネウマは複合ネウマ。「トラクトゥス( _ )+クリマクス( /・.)+クリヴィス(∩)」最初の音だけ長く、あとは全部早く。
クリマクスの変形で「 /-_ 」の場合は3音とも長く。「 /・_ 」は最初の2音を早く3音目を長く。

* 2段目 se-cundumのcunの音符は、融化形で、小さく下に付いた音で子音「n」を言う。

*3段目 no-menのnoのザンクトガレンのネウマの上、3つ目の音に書かれた指示文字は、「t+b」(テネーテベーネtnete bene)『ゆっくりのばす』

* 3段目 tu-umのtu-に付けられた「 ’’’」(トリストロファtri strophe)は、3つ細かく続ける。(tri=3)
*四角譜で4つ目の音にザンクトガレン(赤字)でカッコが書かれているが、これはザンクトガレンでは音が無いということ。(ランのネウマでは音があることになっている)ここではザンクトガレンの方を採用する。

* 3段目 i-taのi-にエピゼマが先端に付いたヴィルガが2つ、これを「ビヴィルガ(bivirga)」と言う。(bi=2)

* i-taのtaにつけられたネウマは、トルクルス(∽)の変形。引き延ばした形で『3音全部を流れずにゆっくり長く』更に3音目が低く下がるという指示。

* 3段目 tu-aのaの前のギザギザの音符は、装飾音のようなもので、前の音を長めにとり、ギザギザの音は軽く流す。 これは、こぶしを付けて歌うなど、当時は特定の歌い方の指示だったではないかと考えられるが、解明されていない。

* 4段目 fi-nesのfiに付けらたネウマは「サリクス(salicus)」上に向かって3つ目の音が強調される。
* fi-nesのnesからter-raeのterまでは2段目のtempliのpliからtu-iまでと同じ形。

* 4段目 大区分線の下に、ネウマでは「st(statim)」が付けられているので本来は切らない。(区分線無効マークが既に付けられている。)

* 4段目ple-naのpleには「-」(episema)」付きの∩(crivis)、naには「c」(celeriter)」付きの∩(crivis) 
同じ音形が続いても、全く同じようにつまらなく歌わない。
* 4段目 最後dexte-raのraには「-」(episema)付きの∩(crivis)が2つ付いているが、これも同じように歌わず、ランのネウマを参考に、最初のクリヴィスをteneteで長めに歌う。

* 訳は次回にやります。


◇ 質疑応答とお知らせ

質問:「GRADUARE TRIPLE」の日本語訳はないでしょうか。
答:現代の日本のミサでは廃止されているので訳本はない。昭和30年代の「ミサ典章」には載っていたが、順番等は同じではない。
抜粋を載せたものはある。十枝正子著「グレゴリオ聖歌選集」(CD付、サンパウロ出版、2500円)
⇒2月2日 「聖母マリアのお潔めの祝日」に関しては、Graduare Triplexのp540、LUMEN (シメオン賛歌)のみが載っています。

お知らせ:古楽院夏合宿の参加者募集中 <8月21日(水)~8月23日(金)>
お問い合わせは、窪田道子さんまで⇒ m-kubota@fonsfloris.com

(mm)
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by fonsfloris-k | 2013-06-15 13:00 | 講座レポート
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